微かに思い出せるのは__、
幾つかの蒼い燈火

天使との邂逅



あの廃屋で目を覚ました君は、数か月の間で学んだことがある。ひとつ、この世界にはゼル粒子という生物の脳周波数に反応して環境に影響を与える微粒子が存在し、それは今も空気中を無数に漂っているという事。ふたつ、その粒子のせいで突然変異を遂げた生物が何種も存在していて、それらは生きるために他の生き物を襲う可能性もあるという事。みっつ、まだ知的生命体と呼べる生物、つまり人間に近い種族は存在しているという事、そしてそれらもまた、生きるために他の生き物を襲う可能性があるという事。

生きるために必要な知識を着々と身に着け始めた君は、この『商業地区』であるとき彼女に出会う。

身軽そうな着物を身に着けた褐色肌の少女。荒れ果てたコンクリートの森であるこの商業地区でビルの木々をかき分けて彼女は何かを探しているかのように辺りを見回して地下駅への階段を下りて行った。

君が知っている知識の中にはこんな情報もある。それは、この世界には天使と悪魔が住み着いているという事。

合理主義で目標の為に最も利益のある選択を躊躇なく下す悪魔、
規律主義で神様とやらに課せられた如何なる規約をも遵守する天使。

この地下駅というのはどちらかの縄張りとなっていて、自殺志願者かよっぽど腕に自信のある者以外は寄り付かない場所であるというのも知っていた。


少女の身を憂いだ君は咄嗟に地下駅へと続くその薄暗い階段を下りて少女の跡を追っていく…




2020/2/11